最近、惜しくも亡くなられてしまったが、シャンソン歌手の石井好子氏の「パリの空の下、オムレツのにおいは流れる」はけだし名著である。
ああいうテンポがよくて、楽しげに、そしておいしそうな文章を書ける人が文筆を生業にしていないというのは、本当に「天は二物を与えるものだなー」と思わざるを得ない。
こちらも思わずちょっと固めの凝った文章を書いてみたくなる。
石井氏は「パリの~」のほかにも文春文庫から、いろいろなお料理の思い出をつづった「パリ仕込みお料理ノート」という本も出ているが、これもまた面白い一冊。
戦前の生まれでありながら幼少より「パン」が大好きな彼女がフランス人のパンに対する熱い思いを語ったり、さまざまな仕事を通じて知り合った東西を問わない幅広い著名人の方たちとの「おいしいもの」を交えた思い出などがまさしく「フランスのエスプリ」をきかせて語られる。
そして、さりげなく出てくる食事の作り方が説明されているのがまたよいのだ。「レシピ」ではない。分量なども書いていないことも多い。
でも使われている材料と、それらがどんな風に調理してあるかなどがフランス料理など全く縁のない読者にもきちんとイメージできる形で描かれているのである。
出来上がったものは、もしかしたら彼女が食べた味とは似て非なるものなのかもしれないが、気楽に作れそうに思えるのもまた魅力である。
古くなってもいいものは生き残る。この本もそんな一冊だと思う。